不景気不景気というけれど こういう時代は危険だよ
きょうは極楽だよ、
と隣にすわるおじいさんが口にした。
不景気不景気というけれど、
それにしても。
ただ、こういう時代は危険だよ。
国と国とが戦争をはじめたりしやすい。
「おじいさん、戦争へ行かれたんですか?」とぼく。
大陸へ行ったんだ。
中国のベトナムとの国境あたりまで行った。
戦争で経験したことは、
じぶんの胸のなかにしまっていて、
たまにふと思い出すことはあるけど、
家族にも話したりはしない。じぶんをおさえている。
話してもわからないと思う。
「ぼくの伯父も、満州へいきました。最近亡くなりましたが」
16歳や17歳の少年たちが、
国にだまされて、たくさん行った。満州へは。
この県からもたくさん行った。
…若いころの戦争の体験を、
ぼくはもう少し聞いてみたかったが、
それ以上語ろうとはしないおじいさんだった。
たまたま旅行のバスのなかで乗り合わせた、隣の席のおじいさんの
記憶になかに、多くの人の記憶のなかから忘れ去られていく
戦争の記憶の断片があった。



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